過去のタペストリー印刷の記事を読んだ複数の方から同様のご質問がありましたので、今回は印刷にまつわるありがちな誤解と問題点についてデザイン製作者の観点から述べたいと思います。※なお、あくまでも個人的見解なので何か異論がございましてもご容赦頂きたいと思います。
今回のテーマ、「印刷会社とデザイン会社どちらに依頼した方が得ですか?」について述べたいと思います。
一言でお答えするとしたら、「印刷会社に直接発注した方が安上がり」です。
これだけ物足りないでしょうから、もう少し補足しましょうか。
印刷会社に直接発注するには、元となる原稿が必要なのはお判りですよね。
すでに原稿をお持ちの方はここでお別れです。直接印刷会社にご相談下さい。
という事で、本テーマ「印刷会社とデザイン会社、印刷物を依頼するならどちらが得?」は「原稿を誰に作ってもらうか?」が重要なポイントとなります。
出版を除いて、印刷物を扱う企業は3種類に分けられます。広告代理店・デザイン会社・印刷会社です。
その企業の規模にもよるので一概には言えませんが、、、
広告代理店はプランニングが売りで媒体との繋がりが強いのも特徴です。営業力がありますが実際の作業は外注任せです。営業ノルマが厳しいのも有名です。
印刷会社は品質と納期と価格が売りで、自社工場をフル稼働させることが目標です。対象は主に広告代理店や製造業などが中心なので、一般消費者に対しては積極的に営業していません。
デザイン会社はデザインとそれに付随するノウハウが売り物です。主張が強いので若干融通が利かない面がありますが、意外と一般消費者に近い位置にいます。
大まかな流れとしては、まず広告代理店がプランを作り、実際の作業はデザイン会社と印刷会社で分担するといった感じになります。
3社の関係を身近なもので例えると、家の建築を工務店に頼み、設計士が間取りを考え、大工さんが建てるという関係に似ています。
ここで「原稿を誰に作ってもらうか?」に焦点を戻しますます。
では、プランニングを上記3社のどこに頼みますか?広告代理店?・デザイン会社?・印刷会社?
ワークフローを逆に辿ると、印刷会社にプランニングから印刷まで頼めれば最短で完成です。我々デザイン会社は次点で、ビリが広告代理店という事になります。
印刷会社は言わば大工さんですから、棟梁に任せておけばちゃんとした家が建つという感じです。
彼らは実務経験によって培われたものが原点なので、どちらかと言うとチラシなど一般的な広告物が対象となっています。
「何故そう言い切るか?」と思われる方もいらっしゃるでしょうから、ちょっと私の経歴をご説明しますね。
「はい、私は印刷業界出身です」という事で簡単に。
そういう事で、チラシなどでしたら、原稿作成から代行してくれる印刷会社に頼む方が安上がりだと思います。
ただ、先に述べたように工場をフル稼働させるのが目標ですから、小ロットの案件やプレゼンを伴うような案件は門前払いされる傾向が高いと思います。
ここで設計士、いやデザイン会社の存在意義がある訳です。
注文どおりの色が出るまで何度もやり直しさせるのがデザイナーで、時間当たり一枚でも多く量産したいのが印刷会社です。
ちなみに広告代理店が絡む案件は最低でも100万単位だと思います。(今はもっと敷居が低いのかも)
そもそもがチープな話題ですから、ここで対象からバッサリと除きたいと思います。(広告代理店さようなら〜)
ここで我々デザイン会社の話をしましょう。
当たり前のようですが、我々もプランニングから手がけています。プランとデザインは切り離せないからです。
ただ、メディアとの繋がりは薄いので、「マーケティングがどうのこうの」「消費者が求めているものはー」など広告代理店よりはやや説得力に欠けますね。
まず我々は、クライアントのお話を聞いて、それをどのように消費者に伝えるかを考えます。
商品の特徴、強み、弱み、競合商品は?など、色んな角度から対象を眺め、、、
消費者は女性か男性か?老人か子供か?
クライアントの話を良く聞いて、代わりに発想するのです。
広告物である以上、デザインは色の組み合わせだけでは完結しません。
書体ひとつとっても、書体から受ける印象を意識して使い分けます。
キャッチコピーも重要な要素です。
工場をフル稼働させる事が目標の印刷会社と、時間の許す限り対象の本質をとことん探究する我々デザイン会社と、ではスタンスが大きく異なります。
という事で、デザイン会社と印刷会社はきちんと棲み分けができています。
時折「顔を利かせて安い印刷屋を使っているんだろ」と相談を持ち掛けられる方もいらっしゃいますが、これはちょっとした誤解です。
印刷業界は競争が激しく、単純に値段競争だけでは存続できないのが現状です。実際に弊社が取引していた印刷会社の中にもここ2〜3年以内に廃業された会社が何社もあります。残っている印刷会社も決して景気が良いという状況ではないので、かなりの大口顧客でなければ法外な価格交渉は無理だと考える必要があります。
実際、検索ワード「格安印刷」でネット検索してみれば印刷会社が沢山ヒットしますが、大体において条件付になっている筈です。「使える用紙や斤量が限られている」「印刷は国外なので量産まで数ヶ月掛かる」「受付は完全データー限定で入稿はオンラインのみ」等々、大体において帯に短し襷に流しといった感じです。
以前取り上げたTシャツ印刷のケースでも、諸条件の折り合いがつかなくて大変な思いをしました。
まれに「お宅の見積もり、印刷代金が高すぎるよ、桁が違うんじゃない」とご指摘される方もいらっしゃいますが、弊社は印刷会社ではないので、手が空いた工場ラインの穴埋めに採算を度外視で受注したり、印刷用紙の在庫を解消するためにキャンペーンを打つこともできませんし、もともと取り扱い規模の小さいデザイン会社なのでスケールメリットもありません。
格安印刷を謳っている印刷会社と、デザインを生業にしている弊社を単純に比較されること自体に無理がある事はご理解頂きたいと願っております。
我々もそういった体験を踏まえてお見積もりするので、皆さんも決して単純にコストのみ評価せず、品質や納期などにも興味を持って交渉されたら宜しいかと思います。
ネット上で多くの印刷会社が謳っている「高品質低コスト」はあくまでも諸条件が整った場合のみで、実際は諸条件の折り合いをつけるのに四苦八苦するのが現実です。
すでに完成原稿が手元にあり、直接入稿できるのであれば印刷会社をお勧めしますが、それ以外は割高でもデザイン会社にご依頼された方が無難だと思います。
これが今回のテーマである「印刷物を印刷会社とデザイン会社どちらに依頼したら得か?」というご質問に対する答えです。
現在ではネットプリントが普及して一般の方でも気軽に発注できる環境が整っています。ご家庭のプリンターを含めると、小ロット印刷においては選択肢が広くなっています。
WordやExcel原稿でも受け付けてくれる印刷会社もあるようですから、一度ご自分でもトライしてみてはどうでしょう。